この件でこのブログにもトラヒックが流れているので触れるべきだろう。
情報統制に関して思い出すのが次のエピソードである。(*1)
ジョブスは社員を集め、アップル最大級のキャンペーンThink differentのスタートを集う野外パーティーを開いた。席上、アップルの広告に対するThink differentを力説した。
さて、この日初めてジョブスと間近で接した一人の女性エンジニアは深く感銘し、以下に素晴らしいスピーチだったかを興奮しながら友人にメールした。
彼女のメール相手は、ソフトウェア企業家のデイブ•ワーナーという人物で、業界でもっとも影響力のある数百人の読者にメールマガジンを配信していた。そこには、マイケル•デルやビル•ゲイツといった面々も含まれていた。
翌日彼女の元には、ジョブスから「ハイ、スティーブです。話したい事があるんだけど」と留守電が入っていたようだが、幸い、彼女は、QuickTimeプロジェクトの重要人物であり解雇は免れたそうだ。
再建屋として崩れかかったアップルの組織を内部から立て直したのは、ギル•アメリオの功績が大きい。アメリオは、アップル再建に際してコスト管理と合わせて、情報統制を徹底して厳しくした。アップルの内部がブラックボックスである事は今も変わっていない。
今ドリコムは、社員が一丸となって、ダムに水を貯めているのに、少しずつ漏れている。ダムから水を放流した時よりも、漏れている事の方が話題になる。貯めても貯めても溜まらない水に、社員のモチベーションは枯れてしまう。
自分達が必死で貯めた水をCEOが勢い良く放流してくれる事が、社員の喜びであり働きがいである。
開発した製品のデザインが素敵と書かれれば、デザイナーは喜び、多くのブックマークがつけば、開発者は喜ぶだろう。水を漏らさず、貯め続け、そして、勢いよく流す事こそ、CEOの腕の見せ所であり、企画屋でありパフォーマーである内藤氏の力が最も発揮される領域だと私は思う。再建屋としての役割は、別の人物にエンパワーメントされるべきだろう。
今年の春に書いた事と重複する事が多いが、今のステージにおいても次の五つが重要である。
1. ダムの水漏れを防ぐこと。(情報統制)
2. 外部に対する水の放流先を一つに統一すること。つまり、今回の一件に関して早急に、CEOのブログからきちんと説明を入れること。楽観的に捉えれば、この一件はドリコムへの関心の高さに他ならない。ネット上を騒がせた事に関してCEOとして誠実な対応をとれば、新たな信頼が生まれる。社員•顧客•株主、全てのステークホルダーを不安な状態のまま放置してはいけない。また、CEO自らが引き続きドリコムの方向性を外部に対して(悪いニュース含めて)明確に示し続ける事。「悪いニュースはなるべく早く開示する事」はウォーレンバッフェトが投資先経営者に真っ先に求める要素の一つである。(情報公開)
3. もう一度社員のフロー状態を創りだすこと。ROEを上げる事で、短期的な利益を産み出すような、組織の最適化と名付けた過剰な人材流出はなるべく避けること。既存の社員のモチベーション低下にもつながりかねない。人無くして組織は成り立たない。長期的な価値創造を念頭に置き、社員のモチベーションを高めるビジョンを示す事。プロモーションすべき方向は、学生に向けてのファン獲得ではなく、社内の優秀な人材からの信頼を確固たるものとすること。それこそが、後の社外のファン獲得へとつながる。 (内発的動機付けとフロー)
4. 苦境を共に乗り越えようと一丸となってくれる人材の流出を避ける事と、今後は自分達より優秀な人間を雇う努力を惜しまない事。新卒の教育は時間とコストを伴う。今の時期は、まだ時期早々。(人材戦略)
5. 権力が内藤氏に集中しすぎてはいないだろうか?今の状況では、誰もCEOの経営上の決定を覆す事ができなく、CEOの判断ミスにより会社が共倒れになる可能性が非常に高い。分権化を進めるべきである。
この一件で悔しく思っている社員は多いはずである。
決して、この力を無駄にしてはいけない。ベクトルを合わせて、大きな力とするのがCEOのミッションであり、組織の成長と一人一人の自己実現に向けて努力する力が一致するべきである。ドリコムに関して、外野席からの発言は誰でもできるが、実際に行動に起こせるのはCEOである内藤氏と社員だけである。
*1 スティーブジョブス 神の交渉術 より引用&編集
CHANGELOG
5. を追加した。
P.S.
「何が言いたいのかわからない。身内からの批判は絶対に許すなってこと?」というご意見をid:hamastaさんよりぶくまコメントで頂いた。
必ずしも「情報統制 = (建設的な)批判封じ」とは考えていません。私は外部の人間なので、内情は詳しくわかりませんが、中の人のエントリを見る限りは、経営陣と従業員の距離感は近く、活発な議論が行われているようです。技術や市場の変化が著しいこの業界では、経営者と従業員の関係は、雇用主と雇用者というよりは、パートナーであるべきです。
しかし、トップからの情報公開無しに、各々の社員が独自の視点で会社や抱える問題を外に向けて語りだすと、多くのステークホルダーに不安を与える事になります。また、あらゆる交渉においてもこちらの内情が筒抜けでは、強い立場に立てません。適切な情報統制は、トップマネジメントからの適切な情報開示があってこそ成り立つ物だと考えています。伝言ゲームでは、元々伝えるべきだった内容に個人個人のバイアスがかかってしまいます。
配慮が足らず、言葉足らずな部分があったかもしれません。
ご指摘に感謝いたします。